サルはゲーマーになりたかった。「Ancestors: The Humankind Odyssey」が描く人類の進化

遙か昔、やがて人類となるサルはそれまで住んでいた森を捨てて危険な地上へと降りた。その理由は完全には解明されていない。
気候の変化による森林面積の減少や、単純に気温の変化に耐えられなかったなど諸説あるが、環境の変化によりやむを得ず地上で生活するようになったと言う点で一致しているようだ。

だが、本当にそうだったのだろうか。サルは望まぬまま人間にならなければならなかったのだろうか。もしそのとき地上に降りる必要がなかったなら、私はサルとして樹上生活を送っていたのだろうか。今の私は「仕方なくそうなった」末の姿なのだろうか?
そんな私のネガティブな疑問に、そんなことはないぞ!とビデオゲームという視点からひとつの考えを示してくれたゲームが2019年8月にリリースされた。

紀元前1000万年から紀元前200万年まで、人類の偉大な祖先の壮大な旅を描くゲーム「Ancestors: The Humankind Odyssey」だ。
私が体験したゲーム序盤の出来事から、本作の描く人類の進化を紹介しよう。

人類の進化を信じるということ

「Ancestors: The Humankind Odyssey」はいわゆる「マインクラフト」タイプのオープンワールドサバイバルゲームだ。プレイヤーは突如サルとして紀元前1000万年の地球に放り出される。
虎のような牙も蛇のような毒も持たないサルが厳しい生存競争を生き残るには、マップをさまよいアイテムを探し、代わりとなる道具を作り出さなければならない。

最初のマップはジャングル。食べ物も豊富、危険な野生動物から逃げるための樹木がうっそうと茂っている。とはいえ一筋縄ではいかない。これまでここで生きてきたはずのサルだが、なぜかすべての記憶が消失している。水のことすら知らないのだ。どんな物品でも使用するためにはまず手に取り、調べてみなければならない。

今までも飲んできたはずの水を恐る恐る調べるサルは、「彼(もしくは彼女)はこれまで一体どうやって暮らしてきたのだろう」と首をひねるような姿だ。ゲームの冒頭にはこんな一文が表示される。

ゲームをスタートした私は途方に暮れた。何をすべきか本当にわからない。
チュートリアルと呼べるものはほとんどない。”あまり手を貸しません。”というが、ほとんど手を貸さないゲームだ。こんな説明不足のクソゲーは攻略動画を見てさっさとクリアしてしまおう――

しかし待て。それでいいのか。いやしくもサルよりは進化していると自負する私がそれでいいわけがない。ここまで命を繋いできたご先祖様になんと言い訳する気なのか。

このゲームは最新の学説から見える人類の歴史を元にしているという。であれば本当の攻略情報はインターネットにではなく、私のDNAに刻まれているのではないか。

あの壁の近くに黒く光る石が転がっている。木には堅いヤシの実がなっている。かつて先祖は何もないところからどうやって道具を作っていたのだろうか。
冷静に周りを観察すると、私に刻まれた人類の歴史がささやき始めた。

DNAに刻まれた声に耳を傾けながら小さな気づきを少しずつ重ねていくと、自分が一歩ずつ人類へと進化していくことが実感できた。試行錯誤の末、ようやく道具といえる物体が完成する。作った道具で立派な武器を作り上げたときの安心感と喜びをあなたにも味わってほしい。きっとご先祖様も同じ気持ちだったに違いない。

人類の進化を信じるということ。それはプレイヤーを信じ、何ひとつ持たせずに過酷な生存競争へと送り出すということだ。

前に進むということ

何も知らずに過酷な生存競争へと参加させられた私はいつしか順応し、ジャングルで快適に過ごすせるようになっていた。清浄な川が流れ、果実は豊かに実り、ほかの野生動物との生存競争にも勝利しつつあった。

このゲームは先に進む必要は全くなかった。なにせジャングルは資源が豊富で安全。生きるためにこれほど適した環境はない。生きて世代を重ねるだけならジャングルで十分だ・・・・・・とはならなかった。ゲームを少し進めると事件が起きる。

突然空が光り、炎が轟音とともに木々をなぎ倒し破裂する。隕石だ。生き物にとってそれは恐怖としか言いようがない光景だろう。森に住む動物は我先にと逃げだし、必死に生き残ろうとしている。
だが、そんな逃げ惑う動物たちとは真逆の方向を見つめる黒い影があった。それは私であり、我らがご先祖様だ。

ほんの些細な異変が死につながる世界で、このような天変地異から逃れようとするのは当然の反応だ。生き残りたければ「そこで何が起きたのだろう」と余計なことに首を突っ込んでいいはずがない。だが、このサルは違った。

隕石を追って前に進み出したこのサルには今後さらなる困難が待ち受けているはずだ。なぜなら人類は今や絶海の孤島にも、極端な天候が支配する山岳にも、生命を育む水の乏しい砂漠にも住んでいるからだ。ゲームの主役であるサルはジャングルを抜け、これからさらに厳しい世界へと足を踏み入れる。

「Ancestors: The Humankind Odyssey」が描くサルが人になった理由とは、気候の変化によって仕方なくというものではなかった。サルを地上へと向かわせた原動力とは、ほかの動物たちが持たなかった、この先に何があるのだろうという好奇心だ。人類の進化というエンジンは、好奇心という燃料を燃やして前進し続けてきたことを伝えようとしているのだ。

そしてそのエンジンは形を少し変えて私にも受け継がれている。生きていくためにビデオゲームを遊ぶ必要など無い。やらなくてもいいし、やったとしても途中で電源を切って二度と起動しなくてもいい。それでも私はビデオゲームを遊ぶ。その理由は、サルが隕石を追って前へと進んでいった理由ときっと同じだ。

「Ancestors: The Humankind Odyssey」は、本当はサルから人類への進化を描いたゲームではない。ゲームのサルは、今まさに画面の前でコントローラーを握る私へと進化するゲームなのだ。

これから後に続く先祖たちへ:「Ancestors: The Humankind Odyssey」は、日本国内なら現在日本語翻訳済みのPlaystation 4版Xbox One版Epic Games StoreのPC版を購入できる。好奇心に突き動かされてサルからゲーマーに進化する準備が整ったら、ゲームをスタートしよう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました