新生Deus Exはここから始まる。「Deus Ex: Mankind Divided」レビュー

SF、サイエンスフィクション。自らをフィクションと称しながら、それらが描こうとするのは人間の本質と言えるなにかでした。ある日突然体を機械に置き換えたオーグと呼ばれる人々が登場し、未来の人類の形だと信じた彼らが世界に大きな混乱を引き起こす存在だと知れ渡ったら、果たして世界は彼らをどうするのでしょうか。傑作フランチャイズの最新作、Deus Ex Mankind Dividedはそんな明日起こる――あるいは今起こっている――かもしれない未来の形を通して人の本質を見せようとする耳の痛いストーリーを楽しいステルスアクションで包んだゲームです。

 非常に評価の高いDeus Exフランチャイズの最新作であり傑作Deus Ex Human Revolutionの直接の続編という非常に高いハードルに挑戦した本作は、果たしてその期待に答える作品に仕上がっていました。

挑戦はないが完成されたシステムを拡張し遊びやすく進歩

 本作は完成された前作のシステムをむやみに弄らない安定感のある続編といえます。しかしカバーからカバーへワンボタンで移動できるようになり、武器MODや弾種を簡単に切り替えられるようになるなど前作の小さな不満が潰され遊びやすく進化しています。前作同様ステルスに特化したゲームシステムになっていますが、新たに追加されたオーグは戦闘向けのものも多く前作以上に正面切っての撃ち合いもこなせるようになっています。

 また、前作では不満のあったハッキングの万能さもだいぶ解消されています。関門を突破するためにはハッキングが最もわかりやすい方法ではありますが…。しかしAR技術を駆使したウォールハックオーグで隠されたダクトの入り口や破壊可能な壁などがハイライトされるので、探索を怠らなければハッキングが苦手でも別のルートを探すことはそう難しくはありません。セキュリティを簡単に突破できるマルチツールも結構な数が用意されているので、戦闘に特化した成長をさせても関門は十分に突破できるでしょう。
 このオーグメントを含めMankind Dividedで追加されたオーグメンテーションも駆使して前作以上のスーパーソルジャーに成長できるようになります。

ゴーレム伝説、ゲットー、変身、ロボット、プラハ

 本作が拠点として選んだチェコのプラハは東欧最大のユダヤ人街であるヨゼフォフがある街です。ヨゼフォフはかつてユダヤ人が強制的に住まわされ19世紀になり移動の自由が認められるまでは出ていくことが不可能な街でした。第二次世界大戦ではドイツによりここに住んでいた5万5千人のユダヤ人の実に2/3がアウシュビッツ強制収容所などで命を落とすことになります。
 このヨゼフォフはゴーレム伝説の地としても有名です。迫害されたユダヤ人を守るために作られたゴーレムはその後土に還り、この街にあるシナゴーグの屋根裏に隠されたそうです。余談ですが、神様が最初に作った人間アダムはゴーレムだという説もあるそうですね。
 プラハはまた、ある日突然醜悪な害虫の姿へと変わった男の姿を描いた「変身」の著者で知られるユダヤ人作家のフランツ・カフカの出生の地としても有名です。作家といえばゲーム内でも引用されていてロボットの語源となったカレル・チャペックのロッサム万能ロボット工場、R.U.R.はこのプラハで書き上げられました。

 多くの点で本作との類似点が挙げられるこのプラハをゲームの主要な舞台として選んだのは偶然ではなく非常に考え抜かれた末の選択であることがわかります。

 プレイヤーはこの街で様々な人に出会い、多くのミッションをこなすことになります。特にサイドミッションの豊富さは探し歩いても一周ではすべて見つけられないほどの量で、その多くがプレイヤーに強烈な印象を与えることになります。探索する場所は非常に多く、新聞、eBook、ポケットセクレタリー、ハッキングできるコンピューターは無数に存在します。前項で「ルート探索のためのハッキングの重要度は下がった」と書きましたが、この街に住む人々の生活を垣間見るためハッキングの重要度はむしろ上がったと言えます。
 オーグメントを駆使しあらゆる場所を探索し人々の秘密を覗きながら住人たちの手伝いをこなす。これまでのシリーズでもハブとなる都市の探索は非常に楽しいものでしたが、本作はそれを更に推し進めてシリーズトップの面白さを得るに至っています。

 とは言え問題も存在します。ハブとなるマップはシームレスでつながっておらず、電車移動を行うロードを伴うものになっています。これが短ければ問題はないのですが、現実で電車移動をするくらいに時間がかかる…とまでは言いませんがそう思うほどに長いのがこのゲーム最大の難点となっています。人類と一緒にマップも分断され、その間には深く長い溝が広がっています。
 明らかに人の前でハッキングを行ったり民家の戸棚を開けて回っても住人から何も反応がないところも探索する身には楽でも大変な違和感がありました。

 思いの外小さくまとまったメインストーリー、しかし…

  Deus Exといえば様々な陰謀論をベースに大企業が人類の統制を行うという字面だけで見れば非常に単純なストーリーが展開されていました。世界を股にかけて戦い人類のあり方まで踏み込んでいった前作までと比べると本作は小さくまとまっています。自身に隠された謎は残され、ようやく本当の敵との戦いが始まる、といったところで終了します。
 確かにテロリストを追うメインストーリーには消化不良感が残りますが、だからといって本作がストーリー未完の失敗作となるかというとそんなことはありません。
 前作Human Revolutionではオーグこそ人類の新たな進化の方向であり、主人公は望む望まずに関係なくその最先端を走ることになりました。プレイヤーが戦うべき敵は最初に提示されて復讐にも似た世界を守る戦いに身を投じていき、最後には世界の秘密をどうするかまで任せられる人間となります。ゲームとしてみても生身とオーグの両方の状態の違いを描きスーパーパワーで悪人を圧倒し、(そしてあまり出来の良くない)ボス戦も複数用意されていた豪華な仕上がりになっていました。ラストも定番の世界の命運を任せられる選択が用意されるというDeus Exの良いところを踏襲したエンターテイメント性の高いゲームになっていました。

  本作はそういったエンターテイメント性は抑えられ、メイン・サブミッションとも誰を救って誰を救わないかと言うようなスッキリとしないものが用意されています。ラストも「今まで体験した物語を鑑み、あなたは世界をどのような形にしたいか」という問いは出されずに終わります。
 明らかに今我々の世界にある問題(特に移民問題を意識して組み立てられているのでしょう)をオーグという新たな被差別階級に乗せて描いた本作は、前作までの陰謀のベールに隠された「見えない敵」を倒してしまったあとに主人公である私やあなたが戦うべき本当の敵である人類の本質、あるいは世間といった「見えている敵」と戦えというメッセージを発信しています。Deus Ex Mankind DividedはこれまでのDeus Exフランチャイズから脱却し、分かりやすい陰謀論の裏に隠れる最も強固な敵との戦いを描く準備を終えました。

  これまでのシリーズでも登場人物や組織が大量に登場し、それらすべての関係を把握し続けるのが困難でしたが、今回は主人公がインターポールの派生組織らしく警察モノで見かけるあのホワイトボードでそれらの関係を説明してくれます。これが大変ありがたくちょっと長いとは言え世界背景の把握の大きな一助になりました。

真の新生Deus Exは本作からようやく始まる

 名作フランチャイズのリブートとして鮮烈なデビューを飾った前作は、Deus Exの正当な後継者であることを示すためにシステムはモダンに進歩しながら全体の雰囲気はDeus Ex1に非常に寄せられていました。
 ある意味牧歌的だった陰謀論と世界を牛耳る悪の組織との対決を描いた後、本作では差別や偏見といった2010年以降世界が気づき始めた新たな敵との対決を描こうとしていました。このアクションゲームとしては非常に戦いづらい敵との対決を本作のストーリーで完璧に描かれきったとは言い難いものがありますが、あえてDeus Exのプリクエルとして現実の世界と近い時代を描く意味が本作でようやく出てきました。
 続編と言えば主人公のパワーアップですが、いくら身体の能力が上がっても勝ち目のない敵もいれば解決できない問題もあることを描こうとした本作。このDeus Ex Mankind DividedからDeus ExはION StormのDeus ExではなくEidosのDeus Exといえるオリジナルの作品としての道を歩き始めたと言っても過言ではありません。

スコア:3点

  • 5点(人類誰しもが遊ぶべきゲーム)
  • 4点(ジャンルを代表する作品。そのジャンルに興味がなくてもゲームファンならオススメ)
  • 3点(そのジャンルのファンであればプレイ推奨)
  • 2点(そのジャンルをやり尽くし、ほかに探しているならプレイして欲しいゲーム)
  • 1点(誰にもオススメできないゲーム)

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