「Shogo: Mobile Armor Division」レビュー:日米クールの融合が生んだ良作アニメFPS

日本のアニメとアメリカのFPS。日米のクールが合体すればきっと最強のゲームが生まれるはず―― 祝20周年、98年リリースFPSレビュー第四弾は知る人ぞ知る、知らない人には知ってほしい見た目はキワモノでも味は美味しいMonolith ProductionのFPS「Shogo: Mobile Armor Division」。 アニメが好きだ!FPSが好きだ!大好きなモノ全部乗せで送るオタクの夢と業を体現した本作は、後に同社がリリースするJホラーに強く影響を受けた傑作F.E.A.R.の前に生まれたもうひとつの日本文化に影響を受けた良作FPSです。 まずは上記の本作のオープニングムービーでこのゲームの本気度を確認してみてくださいね。 日本語化MODも公開されている本作はSteamでもGOGでも購入できます。なお、GOGではこのメインテーマ「NEGAI」のフルバージョンを含めたサウンドトラックもついています。 Blood II同様bgVoodooを使った方法で快適にプレイできるようになります。ほとんど不具合は出なかったので設定や起動に関してのガイドは拙作Blood IIの記事を御覧ください。

巨大ロボットが戦う異星の戦場

SHOGOといえばこの変形する巨大ロボット――敢えてメックではなくロボットと呼びたい――がゲームの顔です。メックウォーリアのように重量感溢れる巨大な建造物が動くといったものではなく、未来の超技術が生んだ鍛え上げられた肉体の延長線上にあるようなロボットです。つまりプレイフィールはドシンドシンと重厚に動くロボットアクションモノではなく、人間以上のスピードでガンガン走ってバンバン撃てる普通のFPSといった塩梅になっています。
ゲームの大きな特徴だけあってロボットに乗り込んで戦うパートは面白く、難易度ノーマルであればかなりの大立ち回りも可能となっています。飛んでくるミサイルを変形して高速移動で回避するような芸当もある程度は可能です。
全体的にダメージは高いのですが、アクション性が強くハイテンポな戦いを楽しめるのはひとえにかなり豊富に手に入る回復アイテムのおかげです。破壊可能な物体や敵ロボットを倒すと結構な確率で手に入ります。 戦闘を彩る武器はド派手な爆発を起こすものが多く、敵ロボットやオブジェクトの爆発も相まってエフェクトで前が見えなくなる事があるほどです。ただし爆発ダメージがかなり大きい事は問題です。ロボットに乗って戦うマップの半分以上は狭い街中での戦いになるのでレールガンやレーザー、ライフルといった爆風が発生せず遠くまで攻撃できる武器の使い勝手が非常に良くなっています。狭い場所が多く爆発物が使いにくい。これはこの年のMonolith製FPSの逃れ得ぬ宿命になっています。敵機の爆発に巻き込まれたり、そこら辺に停めてある車が近くで爆発しただけでかなりのダメージになります。敵も同様なので車を爆発させてダメージを与えると言った爽快感のある大味な戦闘も楽しめます。
ロボットの敵はロボットだけでなく随伴歩兵も含まれます。特にロケットランチャーのダメージは無視できないものですが、ライフルを装備した歩兵も意外とダメージを与えてきて巨大ロボットに乗った無敵の力を感じることはありません。その小ささゆえどこにいるのか分かりにくいのも少し問題でした。せっかくロボットなんだしサーマルセンサーのように視界を変更して索敵する能力があればもっと面白かったかもしれません。 逆にさすが巨大ロボットだと強く演出するのが攻撃面。足元の敵兵は全てのプレイヤーの期待通りに踏み潰せます。エネルギー弾の爆風で歩兵の小集団が悲鳴と共に弾け飛ぶの様は対ロボット戦とはまた違った暗い喜びをプレイヤーに与えてくれます。
どう見ても体重の数倍はある血液を吹き出しながら弾ける敵兵
プレイヤーが搭乗できるロボットは複数あり、どの機体も見た目はなかなかカッコいいのですがカラーリングはもっと個性をつけて良かったんじゃないかと思います。単体で見ればカッコいいのに個性付けという観点で見るとイマイチに見えます。また、機体によって耐久力やスピードに差があるようですがどの機体でもクリアできるような調整のためかさほど尖った調整ではありませんでした。
ビルに登ったり屋根を飛び回ったりと意外にもジャンプアクションが要求されるマップも多く、そういうのが苦手だとうんざりするかもしれません。リステックエンジンの能力でクイックセーブとロードはかなり早いのでストレスには感じませんでした。 ところで、昔のFPSでは結構よく見られたけど最近見なくなったギミックのひとつにファンを動かして空を飛ぶというものがあります。98年ではかなり一般的でマップクリアだけでなく即死トラップの始動として使われることもあるギミックですが、本作はなんとロボットまで空を飛びます。ビルの屋上に設置されたファンで空を飛ぶ巨大ロボットの姿はいくらなんでもオイオイマジかよと突っ込みたくなりますが、木馬だってあんな無茶な形で空を飛ぶんだから未来のロボットが風力で空を飛ぶことだってあるのかもしれません。
僚機と戦う場面もありますが、気がつくとやられていたり別にやられても問題なかったりと自己主張は低め。一箇所狭い通路で味方が邪魔でスタックした場面もありましたが、全体的に見れば僚機は良くも悪くも居ても居なくても特に気にならない出来。戦争感は少し出ます。

戦場に歩兵あり。戦争は変わらない。

本作はロボットに乗り込んで戦うパートだけでなく主人公サンジュローが武器を手に悪漢たちと戦うパートも含まれています。つまり普通のFPSパートですね。こちらはロボットパートに比べると出来としては一段落ちるものの楽しめる出来になっています。ロボットでのド派手な戦いと比べると静といった感じでまた毛色の違うプレイフィールを提供してくれます。 サンジュローの耐久力はかなり低く敵の不意打ちは致命的なので、このパートは慎重に進めることになります。プレイヤーの大きなアドバンテージとして三人称視点への切り替えもできるので、曲がり角の先の敵を先に見つけることも可能になっています。ただし照準が体で隠れる致命的欠陥を抱えており、三人称視点はあくまでおまけ要素に甘んじています。 ロボットを狙うよりそれを操る人間を倒すほうが容易い。これは多くのロボットアニメが繰り返し描いてきた普遍的なお約束です。
非常に死にやすく、ともすればストレス満載になりかねない戦闘を爽快感のあるモノに変えている魔法がふたつあります。それがプレイヤー同様低めに設定された敵の体力と若干抑えられた敵の反応速度です。明らかに強そうなパワードアーマーを着込んだタイプであっても倒すまでにかかる時間は長くありません。それでも複数相手取るのは厳しく、AIのスキを突き反応しない相手に一方的に撃ち勝つ卑怯さも必要になりますが……。 ヒットモーションや死亡モーションは同世代のゲームに比べて頭一つ抜けた出来を見せた同社のBlood2に比べると並といった感じですが、流血はド派手で戦闘に華を添えています。 全体的に見れば延々と敵の攻撃に晒され死の恐怖に怯えながら戦うよりも敵の位置を先読みし(あるいは死に覚えして)一気に撃ち倒す反応速度重視の戦いが繰り広げられます。AIに人間臭さは感じないものの倒すべき敵としてみればそう悪いものではありません。
反応速度重視の戦いをサポートしてくれるのがゲーマーならきっと誰もが知っているこのシステム。リアルさよりもアニメ的な演出を重視した結果「ビキーン!」という効果音と共に飛び出るビックリマークはプレイヤーに敵の攻撃に晒される瞬間を事前に教えてくれます。 ちなみにこのシステムの(おそらく)本家本元も98年の9月にリリースされています。どちらも主人公の体力は低めで直接戦闘は避けたいゲームです。ゲーム業界ではこういうシンクロニシティとも言える偶然の一致が結構起きるものですね。
せっかく導入したものの今ひとつ使いこなせていないと感じるのがロボットパートでも人間パートでも起こるクリティカルヒットシステム。このゲームも部位ダメージはあり人間に対してヘッドショットはあるようですが、それ以外にもうひとつ敵に大ダメージを与えるのがこのシステムです。しかし例えば急所に当たれば必ず発動するわけではなくRPGのように確率で発生するようで、最も簡単に出す方法は連射できる武器でひたすら撃ち続ける事になっています。効果音とともにエフェクトが出るので爽快感は高いのですが、あくまでおまけというか運が絡んでくる要素になっています。運が悪いと敵の攻撃にも発生するので体力全開からあっさり死亡というようなことも起きます。
一部仲間とともに戦うパートがありますが難易度ノーマルでは特に問題もなく淡々と進んでいく感じで面白いとは思いませんでしたが、面白さの足を引っ張る感じもありませんでした。一度味方に後ろから撃たれて死にましたが……。
血の量は多めですが案外暴力的には感じない戦闘。爽快感は強いです。

――FPSに重厚な物語を――アニメ愛は業界の”当たり前”を破壊した

恋と戦争、裏切りと選択。この頃のFPSは重厚なストーリーを描くことはあまりなかったのですが(驚くことにアクションを命とするFPSにストーリーは不要という主張まであったそうな)、ストーリーこそ命であるアニメから影響を受けたSHOGOはそんな事はありません。 マニュアルに書かれている舞台やキャラクター設定を読まなければいまいち分かりにくいストーリーだったりして完璧とは言えないものの、陰謀ありどんでん返しありの飽きさせないものになっています。また、ストーリーの最中にはいくつか選択肢も登場します。最後の選択肢によって攻略するマップがふたつに分かれることもあり、リプレイする楽しさもあります。
もうこの1枚だけ見てもらえれば主人公について他に説明する言葉は全て消え失せるような主人公サンジュローの勇姿。彼はまだマシな方でモブのモデルはアニメを意識しすぎてなにか恐ろしいものへと変貌したモンスターのような姿に見えますが、幸いなことにあまりジロジロ見るパートは少ないので助かりました。リステックエンジンの推しの機能のひとつにゲームエンジンを使ったリアルタイムレンダリングのカットシーン再生がありますが、プレイヤーは棒立ちか不自然に武器を構えるだけで演技をしないので完成度はさほど高いとは言えません。
非常に面白い刃紋の刀に突っ込むべきか、この刃を眼の前のモンスターに突っ込むべきか……
戦争で大事な人々を失った彼は発端であるテロリストや反乱勢力との戦いに身を投じて行きます。それはそれとして死んだ恋人の妹と付き合う彼の胆力は平和にどっぷりと浸かった私の感性ではなかなか理解しにくいところですが、戦争が身近にあるとはそういうものなのかもしれません。 そして戦場を駆け抜ける彼はいつしか恋の戦争にも巻き込まれていきます。
現在の主人公の状況を一言で言い表した独白
プレイヤーが戦い抜くマップのロケーションは若干地味ながらも多彩で、ロボットに乗って戦う広大なマップや市街戦も含めて飽きが来ないものとなっています。各所に用意された日本語のポスターを見て回るのも楽しみのひとつと言えるでしょう。

――アニメに影響を受けた――重きその言葉を敢えて背負うオタク魂

世間では実際に人を殺したり子供を誘拐した事件の枕詞として使われることが少なくない重い十字架となる言葉「アニメに影響を受けた」。その因果関係はここで議論することではありませんが、FPSにとってこの言葉は今に繋がるストーリー重視のシューターの先駆けとなるこのゲームを生むことになりました。 このゲームがなければ後にストーリーが素晴らしいと評価されるゲームが生まれなかったとは言いません。しかし先駆者として最初期に現れたストーリー重視のゲームが日本のアニメから強い影響を受けたということに私は浪漫を感じずには居られません。ジャンルの出会いはときに世界の時間を前に進める大きな力を生み出します。 ストーリーがなければこのように一本の作品でロボットと人間のパートが切り替わる必然を持つゲームにはならなかったでしょう。そしてアニメがなければこのゲームは生まれてすらいなかったでしょう。 今なお高い評価を維持し続けるMonolith Productionのデビュー作は、今後の彼らの活躍を予感させるに余りある力強さを持った風変わりなゲームでした。

勘違い日本とは言わせない!これは彼らが作り上げたアニメワールドだ!

珍しいロケーションが欲しい。異国情緒が必要だ。ならば日本文化をゲームに登場させよう。そういうゲームは案外少なくありません。なんの脈絡もなく登場するへんてこ日本家屋に代表される不自然な日本文化は「勘違い日本」として一部のゲームファンに親しまれています。もっと著作権についておおらかだった昔はアニメの絵をそのままゲームに入れちゃったものもあります。 日本文化に影響を受けたゲームの代表作として今でも名前が上がる本作には意外にもお城のような世界観を無視したヘンテコなものは登場しません。それも当然です。彼らが作り出そうとしたのは珍しいものとしての日本文化ではなく、彼らの慣れ親しんだアニメワールドを舞台にしたゲームだったからです。アニメファンだからアニメに関係した何かを作りたい。そう思うのはアニメファンの宿業です。 それはさておき、アニメファンの背負うもうひとつの業は自分たちの作品に自分たちの敬愛する作品を登場させたい、パロりたいという気持ちです。彼らは一貫した自分たちの世界を作る傍らで大好きな作品をパロディとしてゲームに登場させました。 彼らのそのオタク魂に敬意を表して登場するうちの少しだけ紹介してこの記事の結びとしたいと思います。
ゲーム最初に登場するポスター。説明する必要を感じないほどのパロディポスター。
「一緒に帰って、友達に噂されると恥ずかしいし」と幻聴が聞こえそう。 多分歌で戦争を終わらせようとするアニメのポスターを飾る主人公の想い。
カッコいいアニメヒーローが掛けるサングラスは丸いに決っています
“KAWASUKI”の真紅のバイク。らっせーら!
「酒」とだけ描かれた力強いポスターを飾る女性はどこかのお酒好きのアイドルを彷彿とさせます。
同僚のコマンダーM. Kusanagi。階級はきっと少佐でしょう。
「ソラリチ」勘違い日本はしないと言ったな。あれは嘘だ。
スコア:3点
  • 5点(人類誰しもが遊ぶべきゲーム)
  • 4点(ジャンルを代表する作品。そのジャンルに興味がなくてもゲームファンならオススメ)
  • 3点(そのジャンルのファンであればプレイ推奨)
  • 2点(そのジャンルをやり尽くし、ほかに探しているならプレイして欲しいゲーム)
  • 1点(誰にもオススメできないゲーム)

今年で20周年FPSレビュー集リンク

今遊ぶ20年目の「Unreal」 「SiN」ゲーム開発の闇を背負った悲劇の良作 「Blood II: The Chosen」 Monolithの荒々しくもつれた最初の一歩

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