シェンムー3へのグチ

先日私にとって残念な発表がYs Netからなされました。PC版「シェンムー3」を配布するプラットフォームがSteamからEpic Games Storeに変更されるというニュースです。当初はSteamでリリースするという話でした。
すでに多くの批判が集まり、何らかの形で解決に動いているということも発表されました。
多くの人にとってはどうでも良い変更であり、長年ゲームを待ち続けたシェンムーファンはそんなことよりもゲームがリリースされることが重要でしょう。
なぜSteam独占には文句を言わないのに、EGS独占にだけ文句を付けるのかという意見もあります。
また、Kickstarterとはそういうものであるという意見も拝見しました。
これらはもっともな意見であり、ゲームファンとして良識あふれるものです。
この記事はそういったことを頭ではなんとか理解できても、心では全く納得できないエロ好き田の心情を吐露するものです。
なぜ私がEpic Games Storeに変更されたことに悲しみ、怒りを抱えているのか、ただただ愚痴を書くための記事です。私の感情をほかの人々に理解してもらえるような記事は書けません。
これはゲーム業界の発展を願うより個人の感情を優先する、正しくない人間による正しくない記事です。

“シェンムー”

「シェンムー」は1999年にドリームキャストで発売され、2年後に「シェンムー2」も発売されました。作り込まれた世界と自由なゲームプレイは多くのプレイヤーを魅了し、後のゲームにも強い影響を与えたと言われています。
「シェンムー2」は壮大なシェンムーサーガの終わりではなく、本来であればさらなる続編が作られる予定でした。しかし、様々な理由からモバイルで「シェンムー街」という外伝がリリースされた以外、シェンムーの名前を持つ関連作が世に出ることはありませんでした。
シェンムーの生みの親である鈴木裕さんは何度か完結作となる「シェンムー3」が作りたいと話していましたが、セガはそれを許しませんでした。
鈴木さんが「シェンムー3」を作るには、パブリッシャーに頼らない新しいゲーム開発の手段が生まれるのを待たなければなかったのです。

“Kickstarter”

2009年、その後クラウドファンディングという言葉を世界中に知らしめる「Kickstarter」と呼ばれるサービスが生まれます。アイデアはあってもお金の無いクリエイターと、そのアイデアにお金を出したいと考える大衆を繋ぐサービスです。

クラウドファンディングが知れ渡るまで、ゲームであれば独自に資金を捻出して作るか、あるいはパブリッシャーからの援助を受けて開発する形が一般的でした。
しかしKickstarterは、そのアイデアを支援したい人々が少しずつお金を出し合いクリエイターを支援するという、新しいゲーム開発の形を世に知らしめました。
クリエイターとファンの情熱がゲームを生むという新しい資金調達の形は、私を含む少なくない数のゲームファンを魅了しました。
特に2010年代前半は、Kickstarerのビデオゲームカテゴリーがある種のバブルと呼べる熱狂に包まれていたことを覚えています。この熱狂は多数の問題を抱えながら、もしこれがなければ世に出ないゲームもあったという善悪両面を持つものでした。
「シェンムー3」も、そんな熱狂の中でKickstarterプロジェクトを開始しました。E3 2015のプレスカンファレンスに登場し、14年ぶりにシェンムーが復活するというニュースは世界を駆け回りました。キャンペーンスタートからわずか2時間足らずで100万ドル(約1億円)を集めたことでギネス記録にも登録されています。最終的に1ヶ月間で7億8千万円を集めました。
セガもライセンス許諾という形で協力していますが、当時私はファンとクリエイターに熱意があれば、パブリッシャーがいなくてもゲームを作ることができることを誇りに思いました。
その後も継続的に資金を集め、2018年末に終了するまでに約8億1千万円が集まったそうです。
ゲームは8月から11月に延期となったとはいえ、6月20日時点でまだ履行されていない約束は多いです。
E3でプレスにプレイ可能なデモが公開されても、Kickstarter支援者にはデモどころか壁紙の一枚も配布されていません。最近始まったPSNでの予約者にはPS4向けのテーマがすでに配布されていると聞きます。
デモ版が配布されるKickstarterの100ドル以上の支援者への説明には「Be the first anywhere to play Shenmue 3」という文章が今でも記されています。KS支援者はゲームに触れる最初のプレイヤーにはなれませんでした。
有象無象のKS支援者がデモをプレイできるようにするより宣伝になるプレスを優先する事も、すでに手に入れ、おそらくは開発に使ってしまったお金より、これから手に入るお金の方が大切なのも開発や経営としては当然なのでしょう。
それでも、これは誰よりも先に支援に駆けつけたファンを蔑ろにする行動にしか私には見えません。

“PCゲーム”

2003年にリリースされ、成長を続けていたSteamという巨人の支配は徐々に陰りが見えていました。2018年には少数開発の作品を作るデベロッパーを軽視している様な不透明な運営が問題視され、それが大きな転機となります。たびたびほころびが出てはなんとか修復してきたValveですが、この問題と下記のEpic Games Storeの登場は開発側の脱Steamを加速させる決定的な事件となりました。

2018年末、「Fortnite」で巨万の富を手にしたEpic GamesがEpic Games Storeをもってデジタルディストリビューション業界にやってきました。デベロッパーの支援を掲げ、それまで当たり前だと思われていたプラットフォーマーの取り分30%を、わずか12%としたことが大きな話題となります。このほかにもデベロッパーを支援する方策を打ち出しデベロッパーの支持を集めていきます。
ゲーム開発は時に運のようなもので、開発前にそれが売れるかどうかもわからない手探りのような商売です。特に小規模デベロッパーではEpicの支援がどれだけ心強いかは言うまでもないでしょう。契約によって規模は違うでしょうが、EGS独占になればたとえ一本もゲームが売れなくても利益が出るほどの資金が投入されていると言われています。
しかし、Epic Games StoreクライアントはSteamに比べて低機能、それまでSteamで普通に買えたゲームが販売を取りやめ、EGSの独占販売にすることもたびたびありました。私にとっては不利益を押しつけてくるだけのストアです。なお、独占を決めるのは最終的にパブリッシャーの判断ではありますが、この記事は事実より私の感情が優先されます。
ロードマップを公開し今後の機能追加を約束してはいますが、ストアやクライアントの低機能さ、開発速度に比べてデベロッパーの囲い込みを重視しているように見えるEpicの行動は、少なくとも私には見過ごすことのできないものです。独占によるコンテンツの充実は、Steamに引けを取らない利便性を提供できてからにして欲しいものです。
OriginやDiscordなど、いくつかのPCゲームデジタルディストリビューションサービスでも独占は行われています。しかし自社開発ゲームや支援したデベロッパー作品の独占であり、事前に独占販売であることを発表していることがほとんどです。他プラットフォームで販売していたゲームがある日突然取り下げられるという混乱を招くものはあまりありません。
「シェンムー3」での問題は、最初にSteamでリリースと言っていたところがEGSに変更された所にあります。当初の約束が直前で反故にされました。
とはいえ、なぜそこまでSteamに固執するのか理解できない方は多いと思います。Steam、EGSのどちらも同じくパソコンで動きます。リリース当時はSteamも嫌われていた事を知っていたり聞いていたりする方もいるでしょう。
私がSteamに固執する理由はひとえに、自分が育てた、一緒に育ってきたという自負によるものです。
Steamは元々オンラインDRMとしての側面が強いサービスで、それはユーザーに嫌われるものです。しかしユーザーの声を取り入れながら、引き替えに数々の利便性を生み出しました。
アカウントにひもづけられたライセンスは、インストールの度に十数桁の英数字のCDキーを入力したり、何枚もあるCDを入れ替えたり、常にプレイディスクをトレイに入れなければならないといった煩わしさからユーザーを解放しました。
ストアのフォーラムは、多様な環境で動作するPCゲームに不可欠な知識の共有、ユーザー同士の互助を簡単に成し遂げる媒体となります。
クラウドセーブやコミュニティガイド、MODを簡単に導入できるワークショップなど、Steamがユーザーに提供する利便性は枚挙に暇がありません。そして、これらの機能のほぼ全てがEGSにはありません。
今では信じられませんが、Steam Storeがスタートした2000年代後半には、PCゲーム業界は死にかけていました。横行する海賊版は正規ユーザーですら犯罪者として扱うような非人道的なDRMの台頭を許し、正規ユーザーに不便を強いるDRMがさらに市場を殺すという悪循環に陥っていました。そのまま何もなければ間違いなく滅んでいたでしょう。
パソコンの前に座っているだけでゲームが買え、ワンクリックでインストールできるSteamの利便性は、ユーザーだけでなく業界を救ったと言っても過言ではありません。
こうしてSteamとユーザーは15年間ぶつかり合いながら、ようやくお互いがなんとか共存できる場所となりました。急に出てきたほかのサービスに簡単には移動できません。なんとか作り上げた場を、後からやってきたサービスが荒らし回るのは耐えがたい苦痛です。
私はEGSを含むほかのサービスも利用していますが、Steamという柱があってこそです。

壮大な言い方をすれば、かつて世界を救った英雄が王国を築き、長い年月の中で腐敗が進み悪とされる現状は残念でなりません。それでも私にとってはSteamはもっとも使いやすく、思い入れがあるプラットフォームです。

“夢の終わり”

長くなりましたが、いくつかの歴史を辿ったことでようやく書きたいことにたどり着けそうです。
今回の「シェンムー3」のEGS時限独占の発表が私にとって残念でならないのは、「in looking for the most enjoyable experience on PC」と発表されたニュースがあまりにも私を無視したものだったからです。少なくとも私はEGSでMost EnjoyableなPCゲーミング体験を得ることはできないでしょう。
パブリッシャーが見捨てた作品でも、クリエイターとファンの熱意があれば作ることができる。そしてそんなゲームが、かつて死にかけ、たくさんのファンや企業の努力でようやく息を吹き返したPCゲーム市場の中心地だったSteamにやってくるというおとぎ話には夢がありました。

白状すると私は元々「シェンムー」シリーズをプレイしていないのですが、それでも良い夢を見せて貰いました。ありがとう。
鈴木さんによれば、「シェンムー3」でシリーズは完結しないそうです。もう無いと思いますが、もし続編のためにクラウドファンディングでもう一度お金を集めるというのであっても、私はもうお金は出さないでしょう。

6月22日追記
すっかりおそらく今回の決定で最もEGS時限配信を強力に推し進めたであろうDeep Silverのことを書くのを忘れていました。
2019年前半にSteamで予約を行っていた「Metro Exodus」が予約販売分以降全てEGS限定配信となりました。現在はWindows Storeでも買えるようです。実際の内情は不明ですが、Deep Silverが最もそれを推し進めたと言われています。彼らは「シェンムー3」のパブリッシャーでもあります。Epic Gamesは独占配信をあくまで「顧客の自由意志」としています。もちろん独占配信とそれに対する報酬を打診しているようですが。

「Metro Exodus」の”実績”があるため「シェンムー3」の決定に関しても、内情は不明ですがDeep Silverの決定と考えています。「シェンムー3」はUnreal Engineを採用しており、88%の取り分の他にエンジンのライセンス料金である5%も免除されるため、たとえ一部の支援者のことを裏切っても旨味は多いです。
上に「パブリッシャーがいなくてもゲームを作ることができる」と言った旨の内容を書いていますが、結局はパブリッシャーに縛られることになるのはなんとも皮肉ですね。

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