「9.03m」”面白い”が誰かを救う。

あらゆる災害で被災したすべての人々に寄せて。

9.03mとはスコットランドのゲームデベロッパーSpace Budgieの制作したウォーキングシム、一人称視点のアドベンチャーゲームです。現在は無料で誰もが遊べるようになっていますがもともと2ドル(その後1ドルに)で売られていました。それらの売り上げの半分は地震の被災孤児を支援する団体Aid for Japanへ、もう半分はredrという被災した地域と人々を支援する団体へ寄付されました。

このゲームは2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震で被災した人々への祈りとして作られました。舞台はサンフランシスコのベイカービーチで、遠くにはその象徴であるゴールデンゲートブリッジがうっすらと見えます。そこでプレイヤーは遠くに見える人影を蝶に導かれながら追いかけるという内容になっています。

人影に近づいていくとそれは姿を消し、そこにひとつ品物が置かれているだけであることに気が付きます。
太平洋を挟み遠く離れた砂浜にもかかわらず、実際にアメリカ大陸の太平洋側の海岸には多くの品物が流れ着いたそうです。カナダの海岸にバイクが流れ着いたという話を記憶している人も少なくないでしょう。

古来より蝶とは世界各地で生と死にまつわる象徴として扱われることの多い生き物です。キリスト教では蝶は復活の象徴とされ、ギリシャでは魂や不死の象徴であるとされていました。日本でも仏の使いとみなされることがあるそうです。

このゲームは一人のゲーム開発者の祈りから開発がスタートしています。ここからは同じくゲーム業界を取り巻く様々な人々の祈りの形を振り返ってみようと思います。

ゲーム業界と慈善事業

遊んで応援

SteamのThis War of Mine – War Child Charity DLCより

個人、あるいは会社単位で行う慈善事業への支援といえばこの9.03m以外にも2015年にはThis War of MineWar Child Charity DLC、2017年にはDead by DaylightCharity Case DLCWar for the OverworldThe Cynical Imp DLCCompany of Heroes 2David Sheldrick Trust Charity Pattern Packなど様々なデベロッパーが独自の慈善事業支援を行っています。

humblebundle.comより

 
このような取り組みは会社単位で行われるものよりも複数のメーカーやコミュニティを巻き込んだイベントのような取り組みで行われるほうが多く、規模に合わせて知名度も高くなっています。非常に有名なのはHumble Bundleが行うゲームバンドルセールです。Pay What You Want(購入額を購入者自らが決める)として販売され、購入者が望めば購入金額の一部またはすべてを慈善事業団体への寄付できるゲームバンドルになっています。開発者への恩恵も大きく、購入額の下限は非常に安いものでしたが売り上げを大きく伸ばしたという話には枚挙にいとまがありません。そのバンドルで高額寄付者はページに名前が載ることもできます。様々な批判もあるものの、その寄付額は2017年までに50の団体を通して累計1億ドルを超えています。
最近はゲームのバンドルセールは相対的に少なくなりましたが、Humble Storeではメーカーの決めた売値ですが、望むのであればその中の5パーセントを募金できるようになっています。

Humble Bundleは2010年に始まりましたが、それ以前にもチャリティを目的としたゲームバンドルが存在していました。

goodnewsnetwork.orgより

2003年にThe Entertainment Software Association(ESA)基金がマイクロソフトとEA、アイドス、Acclaimと共同でチャリティバンドルとしてCoD:Frontline、Hitman2、Burnoutの3本のゲームパックをリリースしています。その後もESA基金はバンドルパッケージをリリースし続け、Xbox360だけでなくSCEと組んでPS2でも同様のチャリティバンドルをリリースしました

arstechnica.comより

少し変わり種ですが、スウェーデンのストックホルム・アーランダ空港では募金箱にアーケードゲームが合体したようなサービスが始まっています。日本であればカプセルトイが帰国する外国人客の余ったコインの処分に利用されていますが、ああいったノリのものですね。見た目は懐かしいアップライト筐体ながらも透明な募金箱と組み合わせることでどこか未来的なかっこいいフォルムになっています。

karapaia.comより

ここに挙げたのはほんの一例であり、プラットフォームホルダーであるマイクロソフト、SCE、ニンテンドー(そしてセガ)を筆頭にゲームのチャリティカスタムテーマ災害義援金などの慈善事業とその支援には枚挙に暇がありません。

参加して応援

ゲームイベントでのチャリティも盛んです。東京ゲームショーの復興支援チャリティオークションが日本では有名ですね。2011年から去年まで毎年継続して続けられています。E3 2018ではEpic GamesがFortniteのチャリティ大会を行っています。

ここ10年ほどで注目を集めるのがゲームイベント、とりわけインターネットで誰もが参加可能なイベントでのチャリティです。つい最近ではSGDQ(Summer Games Done Quick)と呼ばれるゲーム早解きイベントで2億3千万円以上の寄付を集めたことが話題になりました。高額の寄付が発表されるたびに会場は沸き、さらに寄付金額によってゲームプレイに介入できるインセンティブが設けられている点もこれだけの寄付を集める原動力になっています。もうひとつ付け加えるなら、これまで毎年イベントを開催し続けた継続の力もあるでしょう。

上記のFortnite大会でも見られるようにゲームの実況動画は世界中誰もが参加でき、しかもゲームを魅せる(そしてそれによってお金を稼ぐ)という意味で切磋琢磨を続けた業界らしい面白い趣向を凝らしたチャリティイベントが数多く開催されています。それだけに注目度も高く、チャリティライブストリーミングを成功させるためのハウツーが公開されるほどになっています。

ゲーム開発でもチャリティ支援はしばらく前から続いています。「Charity game jam」で検索すればその数に驚くと思います。その中でもHumbleとDoubel Fineが組んだ「Amnesia Fortnight」、HumbleとMojang他複数のインディデベロッパーが組んだ「Huble Bundle Mojam」が有名です。
これらは規定時間・レギュレーションでゲームを作り上げるゲームジャムを利用したチャリティイベント、しかもプロトタイプの製品化を目指す投票や開発するゲームのジャンル、イメージをコミュニティに問えるという視聴者参加型(あれ?この言い方なんか古臭いぞ?)のゲームジャムです。マインクラフトの開発者であるNotchさんのひげを賭けたHumble Bundle Mojam2では50万ドル以上を集めるなど大盛況になっています。もちろんNotchさんは自身のトレードマークであったひげを剃られました。

ほかにも人気ストリーマーNinjaさんの参加したGuardianConで行われたチャリティストリーミング「Charity Blitz」にて匿名の参加者から10万ドルの寄付が届き話題になっていました。

ただしチャリティイベント中に急死するストリーマーのニュースも報道されるなど、加熱し続けるチャリティイベントブーム故のゆがみも出ています。

このように海外では日々チャリティに関するニュースが届いています。募金をする人々も様々で匿名の人も非匿名の人もいます。
一方日本でも上記のチャリティイベントのような大規模なもの以外にも、規模は小さいながらもいくつかの団体がゲームをチャリティに利用しています。そのひとつNext Stormの活動を紹介したいと思います。

PRTimesより

「For」とは、「charity via streaming and gaming videos for esports.」の略称。
esportsを盛り上げる為に、動画、ゲーム、配信を通じてチャリティー活動をしていくという目標を掲げこの活動を「For」と名付けました
esportsの特徴の1つに、障がいを持つ方が健常者と性別の枠を超えて対等に渡り合える競技だと思います。
Youtubuにゲームプレイ動画などを上げ広告収入などの収益のすべてを機材費に当て障がいを持つ方へ支援をしていこうという活動である。
これからのesportsやゲームシーンでの活躍を夢見る若い世代への、機材提供していくことを「For」の活動としている。
新しいチャリティーの形であるため、ご理解がいただけない部分も多くあります。
世間様に広く知ってもらうためにプレスリリースをしました。

新しいチャリティの形で理解されないところもあると書いてある通り、私から見てもちょっと信じられない活動ですがこのような形の団体が日本からも登場しています。軽くブログに目を通しましたが、集めた金額の報告や募金をしたという記事が見当たらなかったので疑惑は深まるばかりです…。

「面白い」が誰かを救う

今よりもっと愚かだった2011年の私は初めてHumble Indie Bundleでゲームを購入した時、「こんなに安くゲームが買えるのか!」と驚きました。日本でもしばらくそれは格安バンドルであると受け入れられ多くの人の目に留まったと思います。その後しばらくしてこのバンドルパックがチャリティのためのものだったことが徐々に広がっていった覚えがあります。たった数クリックで自分のゲームの購入金額の一部が誰かを救う感覚など考える間もなくバンドルされたゲームを遊んでいたと思います。GishやWorld of Gooは初期バンドルの中でも特に楽しめました。

今よりもっと愚かだったころの記録

様々なゲームとチャリティについて振り返ってきた中でわかることは何よりもまず「面白い」が重要だということです。面白いゲームや面白い企画があれば募金がいつの間にか集まっています。
いつの間にか、という言い方はよくありませんね。誰かが企画しそれを見た多くの人が力を集めていく姿は寄付をしたという事実よりも楽しんだという気持ちが強く出ているように見えます。ともすれば宣伝目的や偽善ととられ、あるいは詐欺の温床ともなる事業ではありますが、粛々と募金をするよりもこういったイベントで大騒ぎしながらポケットから小銭がはみ出すほうがゲームファンのサガに合っているのかもしれません。

直近の例では西日本を中心に集中豪雨によって甚大な被害が出た中Youtuberのヒカキンさんが募金の方法を示しながらひとりの100万円よりみんなの1円のほうがパワーがあると話しています。厳密にはゲームストリーマーではないと思いますが、氏も「面白い」が集めた力で誰かを救う一例といえるでしょう。

最後にヒカキンさんの紹介していたYahoo!ネット募金ページのリンクを張ってこの記事を締めようと思います。もし誰かがこの記事をここまで読んでくれて「面白い」を感じてくれれば幸いです。

平成30年7月豪雨緊急災害支援募金(Yahoo!基金) – Yahoo!ネット募金

その他参考
Access Accepted第506回:ゲーム産業に広がるチャリティの波と「HELP: The Game」

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