「Blood II: The Chosen」レビュー:Monolithの荒々しくもつれた最初の一歩

Monolith Productionを知っていますか?No One Lives Forever、F.E.A.R.、Condemnd、そしてShadow of Mordor。特にAIの設計に定評があり、ド派手に売れまくるデベロッパーとは言えませんが通好みのタイトルを開発し続ける会社です。そんな彼らにも最初の一歩がありました。 2018年に20周年を迎えるFPSレビュー第三弾はそんな彼らの3DFPSデビュー作のうちの1本、ひたすらダークでグロテスクなFPS「Blood2: The Chosen」です。 現在でもGOGから購入できる本作は一体どのようなゲームなのでしょうか。

始める前に一苦労……超苦労

DIE! BUG! DIE! イヤにリアルなんでスクリーンショットは小さめで……
本来ならまずこのゲームをまともに動かすために行った数々のテクニックを披露するべきですが、まずはこのゲームがどんなものなのか知ってもらってからにしたほうが良いでしょう。
 このゲームは私の環境では非常に不安定でした。5分に一回は落ちるようなマップも多く、クイックセーブとクイックロードを駆使して戦う非常に難しいゲームなのにクイックロードが高い確率で落ちたりと動くには動くといったレベルにしか持っていけませんでした。敵だけでなくプログラムとも戦うゲームです。 それでも今すぐプレイしようと思うナイスガイは記事なんて読まずに一番下のゲームプレイまでのガイドを読んで今すぐこのイカれた世界に飛び込みましょう。

正義は死に、宗教企業に支配された近未来のディストピア

狂信的な宗教団体から発生した巨大企業、CabalCoに支配された2028年の世界は狂っていました。人の命はそこらのチリより軽く、人々は目の前に転がる死体にすら興味を持ちません。今からたった10年でこんな嫌すぎる未来に到達するかと考えると夢も希望もあったもんじゃありません。
主人公Calebは数百年の時を生きる「選ばれし者」であり、邪神Tchernobogの為に働くはずでしたが案の定反逆。ですが元々邪神に仕える予定だったからか他人の命など意に介さないダークヒーローです。
敵が死ぬと大笑い、ドアに斧が刺さってると「Here’s Caleb!」とつぶやく。主人公Calebのキャラクターは殺戮を楽しむ悪人そのもの。 
悪vs悪。戦いに巻き込まれた一般人はたまったものではありません。
一般人の存在は重要です。彼らの多くが死ぬ間際に回復アイテムである心臓の形をしたライフエッセンスを落とします。HPの初期値は100ですがこのアイテムで最大200まで増えます。このゲームはプレイヤーの耐久力がとにかく低いのでこのライフエッセンス集めが非常に重要であり、一般人の殺害は殆ど推奨されているものと言っていいでしょう。 他にもシークレットなどにライフを最大300まで回復させるアイテムやたまに敵も落とすアーマーもありますが、それでもなおプレイヤーは他の一般的なFPSから見てもかなり死にやすくなっています。主人公の見た目との剥離を感じます。とんでもなく強そうな見た目の割に撃たれればすぐに死ぬのはちょっと……。 ダークな世界でド派手に暴れまわることを期待していましたが、残念ながら戦闘はダメなリアル系と言えるでしょう。 本作ではこのCalebを含めて4人の主人公からプレイヤーキャラを選べますが、他のキャラクターはストーリーが変わるわけでもなくオマケ要素が強いので今回はプレイしていません。

ダークな世界を彩る多彩なロケーション

マップのロケーションは多彩でこのゲームの見どころのひとつになっています。ディストピアといえば食肉加工工場、ディストピアの食肉加工工場といえば材料は人肉という王道をしっかりと踏襲した食肉加工工場やディストピア感満載の研究施設、ディストピア感しかないアパート、ディストピアの信仰を司る朽ちた大聖堂等など。ディストピア観光旅行ファンはこのBlood2で満足できるでしょう。

モンスターの裏に潜む製作者を撃て!

シングルプレイゲームはプレイヤーと製作者との魂の対話です。しかしBlood2では敵AIの裏に潜む開発者たちと会話をする前に鉛弾が飛んできて数瞬の後にお陀仏……という場面が少なくありません。ならばどうするのでしょうか?答えは簡単。会話自体の拒否です。
凶悪な爆発ダメージを持つ火の玉を吐くモンスターを無傷で倒したければ…
このゲームの敵AIの多くはこちらに反応するまでは何をやっても気が付かないのに、こちらに気がついた瞬間プレイヤーではどうしようもないほどの反応速度で攻撃を開始します。特に悲惨なのは人間タイプの銃を持った敵です。無傷で倒したければスナイパーライフルでこちらに反応しないほどの遠くから頭をブチ抜き、射線が通らない通路なら決死の覚悟で突撃した後場所を確認してクイックロード。爆弾を投げ込んで始末。面白いかと問われれば面白くないと答えるしかない部分です。 ゲーム後半にしゃがんだ状態なら立った状態に比べて明らかに被弾量が変わることに気がつくまでは戦いを放棄した戦いを繰り広げていました。とはいえ後半は武器も揃いある程度は大立ち回りが可能になります。本当にある程度ですが。 敵のリスポーンや配置には問題があります。何度も書いていますがこのゲームのダメージ量は半端ではないのに絶対にダメージを回避できないような配置の敵が多々存在します。例えばリフトで上がった先の部屋に待ち構えるように配置された強力な武器を持った人間型の敵。不自然にプレイヤーの後ろに湧くモンスターなどはその代表例と言えます。死に覚えゲーという言葉がかなり似合っています。
モンスターの造形はどれもかっこよかったり生理的に嫌なものが多く世界観と実によくマッチしていて見ているだけで楽しい部分です。巨大モンスターは力強くカッコいい、逆に体力が低く小さなモンスターは「カサカサカサ」「グチャグチャグチャ」という彼らが動く音を聞くだけで気分が悪くなるほどの生理的嫌悪感を放っています。暗い場所、狭い場所に潜んでいるので不意を突かれて取り憑かれると画面大写しになり……。
複数の対人戦など理不尽な難度を持つ箇所を抜きに考えると、特にモンスターとの戦いは攻撃を避けながら相手に弾丸を叩き込む楽しいものが多くなっています。あくまで人間相手と比べれば、という程度ですが。 しかしFPSというジャンルで巨大ボス戦を作るのはどうやら非常に難しいらしく、それは98年の本作から2018年現在まであまり変わりはないようです。
スタックさせたボスモンスターを脳死状態で撃ち続ける。マズルフラッシュのライティングの美しさ、壁に跳ね返る薬莢に感動しながら虚無の時間を過ごしていました。
後に非常に高度なAIを作り上げ、最終的にはゲーム世界全体を制御するほどまでに発展するMonolith ProductionのAI技術ですが、Blood2にその片鱗は殆どありません。とどまって戦うかこちらに向かってくるかといった程度のものでモンスターと人間との差別化もあまりされていないようです。唯一Monolithだなと感じるところといえば、彼らのAIの代名詞とも言えるローリング回避を行うところくらいでしょうか。 無反応と超反応の激しい落差と並べてダメなAIの代表のようですが、一方で見るべきところもあります。

痛みすら感じる敵AIのアニメーション

AIの出来はイマイチですが、非常に豊富な被弾アニメーションと組み合わせることで戦闘に爽快感を与えています。特にこのファナティックと呼ばれるCabalCoの兵隊は耐久力も高めで様々なダメージモーションや死に様を見せてくれます。特に面白いのが死亡したと見せかけて倒れそうになるも最後の気力を振り絞り自爆しようとこちらに飛び込んでくるモーション。最初は本当に騙されました。慣れると武器を落とさないし叫び声を上げるので冷静に対処できるんですけどね。後半は敵も武器の威力が上がり一発の被弾が後の難度を大きく変える事が多くなり遊んでいる暇はなくなりますが、彼らは序盤から登場するので様々な方法で料理しましょう。
ヒットエフェクトの噴出する血液はダークな世界観に合わせて多め。激しい戦闘では血痕も結構な量が残ります。ただし人体欠損はなく一定のダメージが貯まると破裂して肉片になります。特筆すべきは死亡アニメーションのデスダンス。上記のファナティックだけでなくほとんどの敵はラグドール全盛となった今見ても凝っています。右足を撃てばバランスを崩し、頭を撃てば大きく仰け反ります。

 ビッグな理不尽と戦うビッグなガン

上記の通りこのゲームの難しさは理不尽さに通じています。普通じゃ考えられないような大ダメージを受けて命からがら戦うプレイヤーを助けてくれるのは多彩で個性豊かな武器たちです。小型の武器なら2丁拳銃当たり前、大型の武器ならばスナイパーライフルからブラックホールを作り出すシンギュラリティジェネレーターのようなSF武器が揃い、さらに魔術を使うブードゥー人形まであって非常に個性豊かです。 ただし問題もあります。なぜかこのゲームはプレイヤーへの爆発ダメージは非常に高いのにモンスタータイプにはあまり効かないので、爆発するタイプの武器は使用できる箇所が限られています。 実弾系武器の弾切れに悩みながら強力な武器の弾はダダ余りという状態で進むことがよくありました。 しばらく前から一般的になった武器の所持数制限はこのゲームにも取り入れられており、数多の武器から9つだけ持ち歩くことが出来ます。前半は全く問題ありませんが、登場する武器の種類が増える後半になればDrop Weaponキーを使った武器の取り替えが重要になってきます。
武器とは別枠でアイテムも存在します。時限爆弾やリモコン爆弾のような爆弾系だけでなくライト、メディキットなど攻略に不可欠なものが含まれています。リモコン爆弾は使い方が分かりにくく、キーコンフィグでDetonateキーを設定しておかなければ爆発しません。

練り込み不足のインターフェース

見どころもある戦闘とは打って変わってゲームのインターフェースについては問題が山積しています。上記のスクリーンショットはリフトに乗って上に行きたいのでスイッチを押したらノータイムで上昇し始めて困ってしまった例。何度かボタンを押せばリフトが往復するのでそのときに乗り込むしかありませんでしたが、残念ながらかなりお粗末な出来であると言わざるを得ません。 このリフトまで酷いものは少ないのですが、はしごは視線の方向によってはめり込んで脱出不可能ではないとはいえスタックをする、降りたいのに降りられないなど練り込み不足が目立ちます。はしごは同世代のFPSでもかなり鬼門で上り下りなんてまともに出来ないゲームが多いことを考えても出来はよくありません。 スイッチの反応もおかしく、基本的には真正面に立たないと反応しないし視線の位置によって反応したりしなかったりマチマチなことがあります。
このゲームの謎解きはレバーやスイッチ探しと鍵を探すことに終止します。レバーやスイッチはともかく鍵はなかなか見つかりません。そう難しいところに置いているわけではありませんが、とにかく小さく手に入れたときも特になにか通知があるわけではないので、手に入れたのを気が付かず延々と探し回ることもあります。鍵は現実的な場所に置いてあるので例えば戦闘で机が壊れたときなどはもし鍵がそこにあれば瓦礫の中に紛れていることがあります。キーカードは更に見つけづらく何故かプレイヤーが置いてある場所の正面に立つと薄い面がこちらを向いているのでわからなければ本当にわかりません。 タブキーでミッションの目標が開けますが、Calebの独白と言った感じで完全に目標を示してくれるわけではありません。
回復アイテムやパワーアップアイテム、武器はかなりわかりやすいQuakeスタイルで置いてあるというのに。
さらにもうひとつ、必ず通るのに視界が壁を通り抜けてマップ全体が見渡せる箇所があったり稀にドアに挟まれて死ぬことがありました。戦闘を除いた謎解きという観点ではマップのデザインはあまり優れていません。

見るべきところはある……が

個性的な世界観と主人公のクールな語り、敵の死亡アニメーションは一見の価値があるいえます。しかし現在、あるいは20年前の基準でも理不尽で場合によっては退屈な戦闘とインターフェースの練り込み不足がこのゲームの価値を落としています。更に現在ではかなり難物な本作のリステックエンジンが今プレイするという行為の足を引っ張ります。5分のプレイの為に10分を費やすような状態が続くこともあり、連続で1時間プレイできた記憶はありません。 Monolith Productionは98年の9月と10月に相次いでFPSをリリースしていますが、FPS2本を一度に作り上げるような体制は整っていなかったのではないかと勘ぐってしまします。どんな人にも最初の一歩があります。その荒々しい一歩を確かめたい人以外にこのゲームをおすすめすることは正直言って出来ませんが、ここまで読んでそれでもやってみようと思うナイスガイのために起動方法をまとめておきます。 スコア:2点
  • 5点(人類誰しもが遊ぶべきゲーム)
  • 4点(ジャンルを代表する作品。そのジャンルに興味がなくてもゲームファンならオススメ)
  • 3点(そのジャンルのファンであればプレイ推奨)
  • 2点(そのジャンルをやり尽くし、ほかに探しているならプレイして欲しいゲーム)
  • 1点(誰にもオススメできないゲーム)

Blood2をWindows10で遊ぶ

このゲームはGOGでもWindows8でサポートが止まっていますが、現在のシステムでも動かすことは可能です。以下にその手順を示します。

まず日本語OSから起動できるようにする

Blood2はバージョン2.0以降は日本語OSで起動できません。キーコンフィグに割り当てられたカーソルキー、テンキー、ctrl、shift、altキーに動作が割り当てられている場合ゲームがクラッシュします。
ゲームのインストールフォルダの中のautoexec.cfgをメモ帳などで開き、「enabledevice “##keyboard”」以下にかかれているキーバインドの項目を変更します。「rangebind “##keyboard” “##65” 0.000000 0.000000 “QuickLoad” 」の中の##65と書いてある部分を書き換えます。書き換える際は「rangebind “##keyboard” “W” 0.000000 0.000000 “Forward” 」のようにキーの名前で大丈夫です。ただし、ゲーム内部から変更できないQuickSaveとQuickLoadの部分は書き換えると使えなくなるのでそのままにしておきます。ちなみにクイックセーブはF5、クイックロードはF6になっています。 全て書き換えたら保存して完了です。

bgVoodoo2とModの導入

今度は現在のシステムで動くようにします。bgVoodoo2を公式サイトからダウンロードします。dgVoodoo v2.55.1というリンクです。更に同サイトからBlood2向けのパッチをダウンロードしてインストールフォルダのblood2.exeと入れ替えます。このときプロパティから管理者として実行とXPSP2互換モードにしておきましょう。 dgVoodooCpl.exeを起動し三種類のタブの中身を書き換えます。デフォルトでも動くようですが、私はこういう設定にしていました。解像度は1280*720で遊びましたがここは自分のシステムに合わせて変更してください。
ここまで設定したらbgVoodoo2のフォルダの中にあるMSフォルダの中にあるD3D8.dll、D3DImm.dll、DDraw.dllを全てBlood2のインストールフォルダに入れます。 次にこちらからワイドスクリーンModを導入します。ネットの偽ダウンロード広告に慣れてると明らかに怪しいですが、右側のDOWNLOADからBlood2_WidescreenPatch_v2がダウンロードできます。こちらはインストールフォルダに「Custom」という名前のフォルダーを作ってその中にふたつとも入れておきます。 ここまで来てようやく準備完了です。Blood2を起動させてオプションウインドウから設定を変更します。
Display
Customise
Available rez filesの中のワイドスクリーンパッチを選択してaddを押せば右側に移動します。一応どちらもロードしておいたほうがいいでしょう。
Advanded
特にDisable fogのチェックとSingle-passのアンチェックは忘れないようにしましょう。
これでようやくゲームが遊べるようになるはずです。私の環境ではいちいち立ち上がるスクリーンキーボードが起動を阻害してくる場合があったのでこちらの記事でスクリーンキーボードを起動させないようにする方法を公開しています。そちらも合わせてどうぞ。
参考文献

今年で20周年FPSレビュー集リンク

今遊ぶ20年目の「Unreal」 「SiN」ゲーム開発の闇を背負った悲劇の良作 「Shogo: Mobile Armor Division」 日米クールの融合が生んだ良作アニメFPS

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