「SiN」レビュー:ゲーム開発の闇を背負った悲劇の良作

光あれば影もある。1998年にはUnreal、Half Life、そしてThiefという巨星が光り輝く年でした。今なおゲーマーに語り継がれるゲームの影には今ではもうほとんど知る人、語る人のいないゲームも存在します。2014年にはSteamやGOGで販売されていたものの、今ではどちらからも買えなくなっています。もはやプレイするにはパッケージ版を探すしかなくなった本作は、20年経った今でも十分にプレイする価値を持った作品であることを紹介したいと思います。 追記 Steamからは消えていますがGOGは私の環境では見えないだけできちんと買えるようです。リンクはこちら

 今では考えられないほどダイナミックに変化する進行ルート

シューターの開発費高騰はもう随分前から言われており、特に数時間で終わる上にマルチに比べるとプレイする人間自体が少ないと言われるFPSにシングルキャンペーンは金食い虫です。しかしFPSがまだ新しいジャンルだった98年は、その大いなる可能性を探っている時期でした。 SiNを最も特徴づけるのがプレイヤーの行動がゲームの展開を大きく変えるAction-Based Outcomeと呼ばれるシステムです。例えばあるマップでプレイヤーが敵に見つかり警報を鳴らされればそのマップの中で不利になるだけでなく後のマップでも敵に見つかっている状態で始まったりするようなものから、全く別のルートやマップに進んだりもするほどの変化を見せるものまであります。エンディングは一種類ですがストーリー展開も若干変化する部分も確認しています。 現在ではただでさえ開発費の高騰でせっかく作ったマップを1度のプレイで全て回れないような無駄なことはしないのが常識になっています。SiNではそんな現在の常識はお構いなしにプレイヤーの行動次第で進行マップすら大胆に切り捨てる贅沢な仕様になっています。
次に進むマップが変わるような大胆な選択肢は大抵の場合セカンダリーオブジェクティブをクリアしたかどうかが関係します。
ただし問題点もあります。これは後に登場するほとんどの分岐や選択肢を用意したシューターでも言えるところですが、分岐点が分かりにくく一度のプレイではどうやっても進行ルートが一本しかないところ。どの行動をとっても一回のプレイでプレイヤーはひとつのルートしか見えません。発売当時ならともかく今や情報サイトもあまりない上ゲーム上でもその特徴を声高に語ることはないので、何も知らないプレイヤーからすれば普通のFPSに見えることでしょう。私自身このシステムの存在を知らなければ一周しただけで終わっていたと思います。 会話の選択肢を選んで分岐するような簡単なものはなく、プレイヤーの探索や謎解きに由来する分岐点なだけに攻略を見ないと二週目であっても別ルートに進むことは難しいかもしれません。

Free Port Cityを守るイカしたタフガイたち

SiNはDuke Nukemのように個性の強いキャラクターを主人公に据えています。見るからに強そうなドレッドヘアのBLADEと見るからにハッカーという見た目の天才ハッカーJCのコンビが悪人をやっつける痛快なストーリー展開となっています。二人は仲がいいというか憎まれ口を叩きあう理想的なバディであり、ゲーム中はマップの状況やプレイヤーの行動に対してコミカルな会話を繰り広げます。
シャワーを使うと「アンタのニオイは知ってるが今はシャワーを浴びてる場合じゃない」と通信が入ります。
彼らの会話には進行のヒントも含まれており、聞かなければ絶対にクリアできないというわけではないもののユーモア溢れる二人の会話も含めて英語力の重要度は若干高め。このあたりが楽しめればゲームの評価は更に上がるでしょう。フェニックスエンターテイメントが制作を手がけたSiN The MovieというOVAがリリースされていますが、そちらは日本語音声が用意されていただけに本編でも日本語版が欲しかったです……。
リアルタイムレンダリングのカットシーンも豊富。ここでも彼らのコミカルな会話は続きます。

最速で敵の頭をぶち抜く戦闘

敵はそのほとんどがアーマーを着込んでおり、登場武器もほとんどがヒットスキャン、つまり即着弾武器なのでプレイヤーは敵を一撃で倒せる頭をできるだけ速く狙うことを求められます。とはいえ、自身もアーマーを着込んでおりかなりの時間撃たれ続けてもヘルスが0になるまでは時間がかかります。まさに見た目通りのタフガイ。 未来が舞台ですが登場武器はハンドガンやマシンガン、ショットガンなど誰もが見たことがあるものが多く使い方や機能がわからないものは少ないです。
特徴的な武器はなんと言っても拳です。BLADEの見た目通り相当な威力があり人間系の敵であれば二、三発顔をぶん殴ればノックアウトできます。弾薬は豊富なので使う場面は少なめですが、彼が見た目だけのタフガイではないことがよくわかります。
敵AIはただプレイヤーに向かって突撃してくるだけのような単純なものではなく、きちんとカバーを使い場合によっては撤退するし良くできています。2018年現在のゲームと比べても少なくとも人間に見えないようなひどいAIに比べればかなりの知性を持った存在といえます。 戦闘においてプレイヤーは最速で頭をブチ抜きたいところですが、完全に弾がまっすぐ飛ぶ武器も少なく場合によってはアーマーに防がれしばらく撃ち合うことになります。AIの出来がいいと思わせるのはこのあたりの耐久力の高さも関わってきています。倒しやすければAIの出来なんて気にする暇もありませんから。
メックやモンスター系の敵はもう少し単純ですが、たまに横っ飛びをして攻撃を回避するような動作をすることもあります。メックは頭が弱点とはいえ一撃では倒せない位耐久力が高いのですが、大きなダメージを与えると仰け反り動作が連続して起きるので特に頭を狙う基本的な戦法に変わりはありません。場合によってはかなりの接近戦でもほぼダメージ無しで倒し切ることも可能です。
一般市民のAIはなぜか必ず通らなければならないドアの前で止まることがあり、通行の邪魔になることがありました。ありがたいことにマップには様々な通行経路が用意されていたのでなんとかなりましたが、たまたまそうだったのかもしれません。場合によってはペナルティはないとはいえ警官である主人公が一般市民を射殺して進まなければならない場面が発生するかもしれません。
移動関係でもうひとつ問題点。プレイヤーは大柄だからなのか扉によく引っかかりダメージを受けることがあります。これはかなり問題があります。ダメージ自体は大きくないものの扉の開き方で体が押されて視線が移動したりと非常にできの悪い箇所。最悪の場合動けなくなった上に扉に挟まれて死ぬようなこともあります。
問題の箇所。スキャン中は体が動けなくなりますがギロチンのように降りてくる扉は避けられず死亡。
また、高難易度になるほど敵の死体がそれほど長くない時間で消えてしまうことが問題になります。ダメージを減らすにはできるだけ遠くから戦うのが上策ですが、タイミングがわからないものの一定時間で死体が消えてしまいます。弾薬は武器としてその場に残りますが敵の持つアーマーや回復シリンジは死体と一緒に消えてしまうのでできるだけ早めに回収しなければなりません。
ヒットスキャン武器の多さとアクション性の強いシューターの両立としてバランスを取る仰け反りモーション、ヒット時の血の噴出、多彩な死亡モーションは戦闘の爽快感演出に大きくプラスに働いており、AIの出来も相まって総じて敵との戦いは面白いものでした。 難易度ノーマル(Officer)での難易度は近年のFPSに比べると格段に高く、HP10以下で一度の被弾も許されず何度もセーブとロードを繰り返した場面も何度もありました。幸いなことにデッドエンドはありませんでしたが、どんなにうまくてもノーダメージでクリアはおそらく不可能な難度なのでデッドエンドはありえる結末だと言えます。

タフガイはニヤリと笑って謎を解…けない

SiNの謎解きは脳みそまで筋肉で武装していると大変難しい出来です。DOSライクなコンソールを使った謎解きは、98年当時とPCの環境が全く違う今や見たこともない人が多いのではないでしょうか。ドアを開くためのキーカード探しはさほど難しくなったもののこのコンソールを使ったタイプの謎解きは一部が本当にむずかしく、恥ずかしながら一部攻略を読んで打開しました。いや、打開できてませんね。オプション画面のコントロール項目に載っていないのに攻略上必ず使わなければならないキーがあるのも大きなマイナスポイント。また、時間制限や戦闘しながら行う謎解きもいくつかあり、こちらも難度が高いと感じます。 ほとんどの謎解きはそれほどではないものの、一部本当に不親切で難しい箇所があります。解けずに一定時間経てばJCから連絡が入るようなこともなし。会話ログも読み返せないので重要かもしれない会話は記憶しておかなければなりません。

ゲーム開発の闇を背負った悲劇の良作

SiNという作品はリリース当初他のゲームに発売日で先んじるために、パブリッシャーの意向で無理やり出したせいか酷いバグを含んだリリースとなりました。更にその後のパッチの悪対応や一部のミラーで配布されていたデモ版にウイルスが混入していたこともあり評価や売上は芳しくなかったそうです。しかしそれも今は昔の話。謎解きに関して問題を感じたのはごく一部。ありがたいことに日本語の攻略情報があるので謎解きで詰まりやすいところはなくなっています。 今ここにあるSiNの、そのAIの出来や弱点攻撃に特化しアクション性の強い戦闘は今プレイしてもなかなか面白い物があります。タフガイとしてプレイしタフガイとして戦う無敵のヒーロー像は色褪せることなく今も多くのプレイヤーを楽しませてくれるでしょう。
SiNの続編、全部で9エピソード出るはずだったSiN Episodesがたった1作で頓挫したことを知っている人も多いと思います。おそらく2006年の時点でもこのようにダイナミックに分岐するようなゲームを作るのは開発費の問題からもかなり無理があったのだと思います。もちろんEp1コミュニティからの反応も悪かったのもありますが…。Ritual Entertainmentもすでに消滅し、続編の望みは潰え、SiNという作品自体がゲーマーの記憶から消え去ろうとしています。とあるエピソード形式のゲームを未だに待ち続ける一人のゲーマーとして、このゲームの末路はけっして他人事ではありません。そのようなゲームをたまに思い出し、記事にする人間が一人くらいいたっていいでしょう。 願わくば、いつか彼らがまたファンのもとに小気味良いジョークとともに帰ってくることを。 スコア:3点
  • 5点(人類誰しもが遊ぶべきゲーム)
  • 4点(ジャンルを代表する作品。そのジャンルに興味がなくてもゲームファンならオススメ)
  • 3点(そのジャンルのファンであればプレイ推奨)
  • 2点(そのジャンルをやり尽くし、ほかに探しているならプレイして欲しいゲーム)
  • 1点(誰にもオススメできないゲーム)

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